白夜の大岩壁に挑む―クライマー山野井夫妻

沢木耕太郎『凍』のモデルとなった山野井泰史・妙子夫婦。なんどかドキュメンタリー番組でも拝見した事があるが、なんとも不思議な絆で繋がっている御夫婦であると思う。何を望むでもない、ただ山に登れればそれでよいという考えの男女。山野井夫婦はそれぞれ凍傷で手や足の指を失っている。山野井氏は単独または妙子夫人などの少数パーティでしか活動をしない。スポンサーも付けない為、メディアを通しての知名度は低いが、登攀歴は輝かしいものばかりだ。海外での評価は国内よりも高い。指を失って以降、尖鋭的なクライミングが出来なくなった山野井氏。同じく優れた女性クライマーでいくつも頂きを落としてきた妙子夫人。近年登頂をしていない妙子夫人に頂上を極めて欲しいと願い、未踏峰の大岩壁を探し当て挑んでいく登攀記録だ。険しい岩壁登攀でも、妙子夫人の人柄が現場の空気を柔らかいものにしていく。登攀そのものよりも、終始そんな夫婦の作りだす空気感を楽しみながら読ませてもらった。